住処は山と水辺に近くあるべし

スイス鉄道の駅は、湖から山までの距離がある場合、丘の中腹に建てられることが多い。線路を挟んで湖側と山岳側に分けられる。ティチーノのほうへ行くとアルプスの急勾配により駅は次第に湖に近づいてくる。

Neuchâtel(ヌーシャテル)はスイス西部ヌーシャテル州の州都であり、スイス最大規模のヌーシャテル湖の北端に位置する。公用語がフランス語の地域でケルト文明の拠点として世界遺産にも登録されている。ワインの産地としても有名である。鉄道の駅を挟んで10世紀末に建造された城跡の下に街が造られた。

街が線路によって湖側と山岳側に分けられている街はもれなく良い。ヌーシャテルは、山→城→駅→街→湖のような断面になっている。大きすぎず小さすぎず、でも歩いていると街の造られ方を把握できる街のサイズだった。単に面積としてではなく、ある種マインドマップのような街としての大きさ?広がりがちょうど良い。これはチューリッヒや京都にも感じる。街の行政で区切られた線的な境界といわゆるご近所さん的な明確な区切りはないものの存在する面的な境界。界隈と言われるやつ。どちらかというと後者の感覚に近い大きさだと思う。けれど、面的な境界といえどそれを補助する線は存在していてそれが山や川、湖、線路、回覧板を回す地域だったりする。私は特に住んでいる場所を中心として山に囲まれていること、水辺までの距離が近いこと、その二つの間が近すぎないことを満たすと良い街だと感じることが多い。欲を言えば地下鉄がないこと、place to placeになることもさることながらヨーロッパにおいては治安が急激に悪くなる印象がある。

ヌーシャテルの街は傾斜に沿って街が広がっているがその高低差が街を複雑に形成している。一方でどこにいても湖が見えることは道は複雑でも大きく自分がどこにいるか把握することができる。地図を見ずに歩くことができる街だった。ロンドンやパリはそれができない、自分にとってはこれがかなりストレスになると気づいた。

レストランの厨房。右手に見える柵の内側には各席がある。

ヌーシャテルの建物は特有の黄色い石を用いた中世の面影を色濃く残している。3-4階建ての建物や邸宅などが建ち並び道にはレストランやバーのテーブルが出されたり、水路や樹木などが街を豊かにしている。そこに広げられた家具も壁際で窮屈にではなく自由に道を使っていた。

広い道や狭い道、階段や広場、どれだけ街が複雑であろうとその自由さを支える大きな構造が人に安心感を与える。それは山や川、碁盤の目の街区かもしれない、一見厳格に見えてもそれが存在し続けることが重要で存在し続けることさえできればその大きな構造の中でどれだけ変化しようと変化をおおらかに受け入れることができるんじゃないだろうか。良い街だった、また行きたい。