雪国にて没

小さい頃、寝る前に両親の死や自分が死んだあとはどうなるかを考えすぎて眠れなくなったことがよくあった。

私たちの旅も佳境を迎え、アイスランドに到着した。

旅行記は全ての日程が終わってから綴ろうと思っていたが、今の気持ちを新鮮なまま文書に残したくてこの文を書いている。

私たちは、アイスランド3日目に北西にあるフィヨルドを見るために車を走らせた。アイスランドは西ヨーロッパで最も交通が発達していない国で少し田舎になると道路は舗装されず街灯は一つもなく、頼れるのは車のライトと道路脇の反射板だけである。加えて、冬場は日の出から日の入りまで4時間と1日のほとんどが夜である。しかし、その僅かな時間の中で見せるアイスランドの自然の表情は美しく、雄大で、人の存在をちっぽけに感じさせる。義務教育を受けてきた人であれば一度は聞いたことのあるフィヨルド。それは、想像よりも遥かに大きく、荒々しく、危険で、美しかった。

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フィヨルドを見終え、日没が迫る中帰路に着いた。北西部はフィヨルドの影響でアイスランドの中でも天気が変わりやすく、険しい道が延々と続いている。そんな中、山道ではホワイトアウトに合い、滞在先まであと80kmの地点で車が雪にスタックして一切動かなくなってしまった。携帯の電波も繋がらず、雪と風が吹き荒れる中車を押せども押せども動くことはなかった。私は、手遅れになる前に車に搭載されたSOSボタンを押して救援を要請するべきだと考え連絡を試みた。恐らく警察に電話が繋がり車の情報や天候を伝えていると向こう側から車が近づいてくるのが見えた。車は私たちの近くで止まり、スタックして動かないことを伝えると5分待てと言って立ち去った。すぐに彼は大きな除雪車に乗って私たちの前に現れた。車の後ろに器具をつけロープで繋ぎ、雪から引き摺り出した。彼はナイスウェザーと言いながら私たちの帰路の安全を願ってくれた。着いてきて欲しかった。

結局無事に宿に帰れた訳だが、スタックした時の絶望感と人生で初めて死を感じたことはきっと忘れないだろう。

あの時車が通っていなければ、車にSOSが無ければ死んでいたかも知れない。美しい自然は時に人間に牙を剥き私たちが無力であることを思い知らせる。何より無事で良かった、生きて帰れて良かった。2度と冬のアイスランドには来たくないです。